
福島第一原発は、原子炉を止められなかったからメルトダウンした
そう思っている人もいるかもしれません。しかし、2011年3月11日の地震で、運転中だった福島第一原発の1〜3号機は自動停止しています。それでも燃料は高温になり、炉心の損傷とメルトダウンに至りました。
原子炉が止まったのに、なぜ事故は止まらなかったのでしょうか。
その答えは、原子炉の中に「制御棒で止められる反応」と「止めた後も熱を出し続ける現象」が、同時に存在していたことにあります。
福島第一原発の原子炉は、地震で自動停止した
原子力発電では、ウランなどの核分裂で生じる熱を使って蒸気をつくり、タービンを回して発電します。
核分裂が起きると中性子が放出されます。その中性子が別の原子核に当たると、次の核分裂が起きる。これが「核分裂の連鎖反応」です。
原子炉を緊急停止するときは、制御棒を炉心へ挿入します。制御棒が中性子を吸収することで、連鎖反応を続けにくくする仕組みです。
2011年3月11日、福島第一原発の1〜3号機でも地震を受けて原子炉が自動停止しました。「核分裂の連鎖反応を止める」という段階は機能していたのです。
ただし、ここで止まったのは運転中のように続いていた核分裂です。原子炉内の熱が、その瞬間にゼロになったわけではありません。
なぜ高速な核分裂反応を制御できるのか
核分裂というと、一瞬で次々に反応が広がる印象があるでしょう。では、人間はどうやって原子炉の出力を調整できるのでしょうか。
鍵の一つが「遅発中性子」です。核分裂に関わる中性子の大部分はすぐに放出されますが、ごく一部は、核分裂で生まれた物質から遅れて放出されます。ウラン235では、この遅発中性子の割合として約0.65%という値が用いられます。
1%にも満たない割合ですが、この時間差があることで、原子炉の出力変化を制御しやすくなります。制御棒は、こうした核分裂の性質を利用して連鎖反応を抑えます。
一方、遅発中性子によって原子炉が制御しやすいことと、停止後の燃料を冷やせることは別の話です。福島第一原発事故で問題になったのは、まさに後者でした。
止まった核分裂、止まらなかった崩壊熱

原子炉を運転すると、燃料の中には核分裂によって生まれた放射性物質が蓄積します。原子炉を停止しても、これらの物質はすぐには消えません。自然に放射性崩壊を続け、その際に熱を出します。
これが「崩壊熱」です。
制御棒で抑えられるのは、中性子が次の核分裂を起こす連鎖反応です。放射性物質の自然な崩壊は、制御棒を追加しても止められません。
崩壊熱は時間とともに減りますが、十分に小さくなるまで熱を外へ逃がし続ける必要があります。
「原子炉を止める」と「止めた原子炉を冷やす」
福島第一原発事故を理解するうえで、最も大切なのはこの二つを分けて考えることです。
停止直後の「約6%」は小さくない

東京電力の解説では、原子炉停止直後の崩壊熱は定格熱出力の約6%程度とされています。数字だけを見ると、「もうほとんど熱は出ていない」と感じるかもしれません。
しかし、元になる原子炉の熱出力は巨大です。仮に熱出力300万kWの原子炉なら、6%は約18万kWに相当します。
しかも熱は、停止した直後だけ出るわけではありません。発生量は徐々に減っても、その間ずっと燃料を冷却する必要があります。
そのため原発には、原子炉を止める仕組みだけでなく、停止後に水を供給し、燃料から熱を取り去り、その熱を最終的に外へ逃がす仕組みが必要です。
津波の後、冷却を続けられなくなった

福島第一原発では、地震による自動停止の後、津波が発電所を襲いました。電源設備や冷却に必要な設備が被害を受け、停止後の熱を十分に取り除くことが難しくなったのです。
ただし、津波が来た瞬間に、1〜3号機の冷却がすべて同じように止まったわけではありません。使えた設備と冷却が続いた時間は号機によって異なります。
例えば2号機では、原子炉隔離時冷却系による注水が全電源喪失後も約3日間続きました。その間に別の注水手段を確保しようとしましたが、設備の復旧作業は他号機の水素爆発による損傷の影響も受けました。やがて注水を続けられなくなり、水位が低下して炉心損傷に至っています。
冷却が不足して燃料が水から露出すると、崩壊熱で燃料の温度が上がります。さらに高温になった燃料の被覆管が水蒸気と反応すると、水素が発生します。福島第一では1〜3号機の炉心が損傷し、1号機と3号機の原子炉建屋では水素爆発が起きました。
これは「止めたはずの核分裂が再び暴走した」という経過ではありません。停止後も残る熱を、十分に逃がせなくなったことで進んだ事故です。
福島第二との違いから見えること
福島第二原発も、地震と津波の被害を受けました。海水ポンプが損傷し、原子炉から熱を取り除く機能に問題が生じています。
それでも、利用可能な電源や冷却設備を使って冷却を続け、損傷した設備を復旧しました。結果として、全号機が炉心損傷に至ることなく冷温停止に到達しています。
福島第一と第二には被害状況や設備の条件に違いがあります。そのうえで両者を比べると、「原子炉が自動停止したか」だけでは事故の行方を説明できないことが分かります。停止後も燃料を冷やし、熱を外へ逃がし続けられるかが重要だったのです。
原子炉は止まっても、事故を防ぐ仕事は続く

福島第一原発事故を「原子炉を止められなかった事故」と理解すると、最も大切な点を見落とします。
地震で1〜3号機の原子炉は自動停止しました。しかし、運転中に生まれた放射性物質は崩壊を続け、燃料からは熱が出続けていました。そこへ津波が襲い、冷却と除熱に必要な設備が被害を受けたことで、炉心損傷へと進んだのです。
原子炉の安全には、「核分裂を止めること」と「止めた後も冷やし続けること」の両方が必要です。
福島第一原発事故が示したのは、原子炉を停止できても、残った熱を逃がせなくなれば深刻な事故に至るということでした。


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