2025年秋、俳優の高畑裕太が9年ぶりとなるドラマへの復帰を自身のSNSで報告しました。この一報は、彼の再起を願う声とともに、今なお社会に残る厳しい視線を浮き彫りにしました。
NHK連続テレビ小説『まれ』でブレイクし、順風満帆な俳優人生を歩むかに見えた彼が、なぜ表舞台から姿を消したのでしょうか。
そして、この9年という歳月は彼に何をもたらしたのでしょうか。一体何をしたのでしょうか?過去の過ちを具体的に振り返りながら、俳優・高畑裕太の「第二章」を考察します。
キャリアを絶った事件 ― 2016年8月、前橋にて

高畑裕太の名が世に広く知られたのは、2015年の『まれ』でした。主人公の同級生役を演じ、その屈託のない笑顔と朴訥(ぼくとつ)としたキャラクターで、お茶の間の人気者となりました。その後もバラエティ番組などで活躍し、将来を嘱望される若手俳優の筆頭と目されていました。
しかし、その輝かしいキャリアは2016年8月23日、突如として断ち切られます。映画の撮影で滞在していた群馬県前橋市のビジネスホテルで、女性従業員への強姦致傷容疑で逮捕されたのです。
強姦致傷事件で芸能界に走る激震

報道によれば、高畑は部屋に歯ブラシを届けるよう依頼し、対応した女性従業員を無理やり室内に引きずり込み、暴行に及んだとされます。
この衝撃的なニュースは、瞬く間に日本中を駆け巡りました。放送を目前に控えていた「24時間テレビ」のスペシャルドラマは、急遽代役を立てて撮り直すという異例の事態に発展しました。
テレビ各局は連日この事件を大きく取り上げ、彼の純朴なパブリックイメージとのギャップに、世間は激しく揺れました。
母 高畑淳子が開いた涙の謝罪会見とその後

特に、母である女優・高畑淳子が開いた謝罪会見は、息子の不祥事を涙ながらに詫びる姿が大きく報じられ、事件の深刻さをより一層印象付けました。
同年9月9日、高畑は被害者とされる女性との間で示談が成立したことを理由に、不起訴処分となり釈放されました。しかし、「不起訴」という法的な決着は、必ずしも社会的な「許し」を意味するものではありませんでした。
事件の性質上、そして示談という解決方法から、様々な憶測を呼び、彼に向けられる厳しい視線が和らぐことはありませんでした。
法的には罪に問われずとも、芸能人としてのイメージは地に落ち、彼は事実上の活動休止状態へと追い込まれました。法的な決着と、社会的な信頼回復の間にある、深く、長い溝。それが、彼の前に横たわる現実でした。
沈黙の9年間 ― 舞台で灯し続けた俳優の魂

テレビから姿を消した高畑ですが、俳優としての道を完全に諦めたわけではありませんでした。彼は、最もごまかしのきかない表現の場である「舞台」に、再起の活路を見出します。
2019年、小劇場の舞台で俳優活動を再開しました。その後も着実に舞台経験を重ね、2021年には自身で劇団「ハイワイヤ」を主宰するに至ります。華やかなスポットライトからは遠い場所で、彼はただひたすらに演技と向き合い続けました。
また、この期間、彼は遺品整理のアルバイトや介護施設でのヘルパーといった、俳優以外の仕事も経験しています。社会の様々な現実に直接触れたこの経験は、彼の人間観、そして演技に、かつてはなかった深みと奥行きを与えたに違いありません。
この9年間は、決して単なる「空白期間」ではなく、表現者として再び立ち上がるための、不可欠な助走期間だったと言えるでしょう。
過去を背負い、再びカメラの前に立つということ
そして2025年、彼は9年ぶりにドラマの現場に戻ってきました。今回の復帰は、彼にとって俳優人生の第二章の幕開けであると同時に、社会からの厳しい審判を受ける場でもあります。彼に向けられる視線は、決して温かいものばかりではないでしょう。事件のことを記憶している人々からの批判は、甘んじて受け入れなければなりません。
その上で彼にできることは、ただ一つです。俳優として、演技という結果で応えることです。言葉を尽くすよりも雄弁に、一つ一つの役柄を実直に生き抜き、観る者の心を揺さぶることです。過去の過ちを乗り越えた者にしか表現できない、人間の弱さや痛み、そして再生への渇望を、演技に昇華させることが求められています。
9年振りのドラマ、無事にクランクアップしました。まずは高畑を起用してくださって本当にありがとうございます。自分に出来る仕事は最大限出来たと思っています。そしてとにかくあたたかい現場でした。共演者の皆様や、スタッフの皆々様、諸先輩方には本当に良くしてもらったし、単純にもっと面白くな… pic.twitter.com/67ajiospUA
— 高畑裕太 (@yutatakahata) September 11, 2025
過去、不祥事を起こしながらも復帰を果たした表現者は存在します。彼らが再び受け入れられたのは、その才能や表現が、世間の批判を上回るだけの力を持っていたからに他なりません。高畑裕太もまた、その険しい道を歩む覚悟がなければなりません。
彼の再挑戦は、単に一人の俳優の復帰劇に留まりません。「人は過ちから立ち直れるのか」という、社会全体への問いかけでもあります。
9年という歳月を経て、高畑裕太がカメラの前でどのような表情を見せるのでしょうか。その演技が、私たちの心に何を投げかけるのでしょうか。今はただ、静かに見守りたいと思います。
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