最近、TikTokやYouTubeのショート動画で、こんな謎のやり取りを見たことはありませんか。
誰かに話しかけられる。
口元に人差し指を当てて「シーッ」というポーズをする。

そのまま、人差し指で自分のフェイスライン(顎のライン)をシャープになぞり、ドヤ顔を決める。
なんだこの謎の動きは……?と戸惑った方も多いはずです。
実はこれ、「ミューイング(Mewing)」と呼ばれる、現在世界中のSNSを席巻している巨大なネットミームなのです。
元々はイギリスの歯科医師が提唱した「真面目な舌のトレーニング」だったはずのミューイング。それがなぜ、日本のネット空間でシュールなギャグへと魔改造されてしまったのでしょうか。
本記事では、この謎のムーブメントの正体と、その裏にあるちょっと面白い文化のズレについて論理的に解説します。
ミューイング・ミームを構成する3つのキーワード
現在のSNSにおけるミューイングは、もはや健康法ではなく、特定のパターンを持った「コメディのフォーマット」として機能しています。このミームを楽しむために知っておくべき3つのキーワードを解説します。
1. 喋れないアピール「Bye Bye」
あの「シーッ」として顎のラインをなぞるジェスチャーの背景には、「今、舌を上あごに押し付けてミューイング中だから、口を開いて喋ることができないんだ。ごめんね、バイバイ」という設定があります。
真剣な顔でこのジェスチャーをされると、話しかけた側は呆気にとられるしかなく、そのシュールな空気感が笑いを生んでいます。
2. 究極の理想像「ギガチャッド(Gigachad)」

ミューイング動画のオチとしてよく登場するのが、白黒の写真で、ありえないほど顎がカクカクに張った筋骨隆々の男性の画像です。
彼は「ギガチャッド」と呼ばれる架空のキャラクターで、ネット上における「究極のアルファ・メイル(圧倒的な強者)」の象徴とされています。ミューイングを極めると彼のような無敵の顎を手に入れられる、という極端な飛躍がギャグの核になっています。
3. 無言のマウンティング「モギング(Mogging)」

モギングとは、外見の魅力で他者を圧倒し、有無を言わさずマウントを取ることを指すネットスラングです。
例えば、友人が自信満々に話している横で、突然ミューイングのジェスチャーをして完璧な顎のラインを見せつける。
すると友人は自分の外見に自信をなくして黙り込んでしまう。これが「モギングが成功した」状態です。もちろんこれも本気のいじめではなく、プロレス的なお約束の寸劇として楽しまれています。
なぜ海外はあんなに顎を強調するのか?日米の美意識のズレ
ここで一つの疑問が浮かびます。なぜ、彼らはあそこまで「顎が張っていること」に執着するのでしょうか。日本人の感覚からすると、少し違和感を覚える人も多いはずです。
その答えは、欧米と日本における美意識と「強さの象徴」の違いにあります。

アメコミのヒーロー(スーパーマンやバットマンなど)を思い浮かべてみてください。彼らは一様に、四角くガッチリとした強靭な顎(ジョーライン)を持っています。欧米において、発達した顎は男らしさ、頼りがい、そして遺伝的な強さの象徴として深く根付いているのです。

一方、日本のアニメキャラクターはどうでしょうか。多くの場合、顎は細くシャープなV字型(いわゆるアゴクイをされるような形)に描かれます。日本では、ゴツゴツした顎よりも、中性的で繊細なフェイスラインが好まれる傾向が強いからです。
この美意識の前提が違うため、海外で大真面目に「最高の顎を手に入れるメソッド」として流行りかけたミューイングが、日本に入ってきたときに「なんか大げさで変なことやってるぞ」というツッコミ待ちのギャグとして変換されやすかった、という文化的背景があります。
日本のミューイング界隈を牽引する男「SATOYU」

この海外発祥のシュールな文化を、日本のSNSに極めて高いエンターテインメント性で持ち込み、爆発的に広めた第一人者がいます。YouTuber・TikTokerとして活躍する「SATOYU(さとゆ)」さんです。
彼は、海外のミームである「ギガチャッド」や「シグマ(群れない孤高の強者)」といった概念を、独自の解釈でコミカルなショート動画に落とし込みました。
絶妙に腹の立つ(しかし憎めない)ドヤ顔でミューイングのジェスチャーを決め、眉毛を片方だけクイッと上げる彼のパフォーマンスは、日本の若者たちの心を鷲掴みにしました。

現在、日本のTikTokやYouTube Shortsで「ミューイング」と検索すると、SATOYUさんのようなコメディ全開の動画と、ガチの美容系インフルエンサーによる「フェイスラインをスッキリさせる方法」という真面目な動画が、ごちゃ混ぜになって表示されます。
この「ネタなのかガチなのか分からないカオスな空間」こそが、現在の日本のミューイング界隈の最大の面白さだと言えます。
(ちょっとだけマジメな話)ミューイングの本当の姿
さて、ここまでミューイングを最強のネタとして解説してきましたが、最後に少しだけマジメな話をさせてください。
ミューイングの本来の姿は、手っ取り早くモテるための裏技でも、マウンティングの道具でもありません。
イギリスの矯正歯科医、マイク・ミュー博士が提唱した「正しい舌の姿勢(ポジション)」に関する理論、それが「オーソトロピクス(顎顔面矯正)」と呼ばれるものです。
本来の目的は、舌全体を上あごの天井にぴったりとくっつけることで、上顎の骨の正常な成長を促し、歯並びや呼吸(鼻呼吸)を改善することにあります。

そして、それは速効性のある顔の筋トレではなく、何年もかけて行う地道な生活習慣の改善なのです。
本来は健康目的の真面目な理論だったのに、ネットの海を渡るうちに魔改造され、最終的に顎を見せつけるシュールなギャグへと行き着いてしまった。この盛大な脱線っぷりこそが、ネットカルチャーの最も面白く、少し恐ろしいところですね。
まとめ:ミューイング・ミームとの正しい付き合い方
タイムラインを席巻する謎のジェスチャー「ミューイング」の正体は、海外と日本の美意識のズレとネット特有の悪ふざけが奇跡的なバランスで融合した、最高にカオスなエンターテインメントでした。

もし明日、友達がいきなり無言で「シーッ」からの「顎なぞり」をしてきても、決して怒ってはいけません。彼はただ、あなたに対してモギングを仕掛け、ギガチャッドになろうとしているだけなのですから。「はいはい、ミューイングね」と、生温かい目で見守ってあげましょう。
ただ、ふざけている彼らの舌は、今まさに上あごにぴったりとくっつき、健康的な鼻呼吸を促しているはずです。
SNSのネタとして笑って楽しみつつ、私たちもスマホを見ながら密かに正しい舌のポジションを意識してみる。それくらいが、ミューイングとの一番正しい付き合い方かもしれませんね。

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