日本の高度な医療を求めて、海外から多くの人々が来日する「医療ツーリズム」。経済効果が期待される一方で、その裏側では深刻な問題が次々と浮かび上がっています。
「外国人は日本人に比べて医療費が3倍も高いって本当?」
「治療費を払わずに帰国する『治療逃げ』で病院が困っているらしい…」
そんな疑問や不安の声も聞こえてきます。話題のワダイでは、今話題の医療ツーリズムが抱える問題点を、分かりやすく解説していきます。
そもそも「医療ツーリズム」って何?
医療ツーリズムとは、最先端の治療や質の高い健康診断などを受ける目的で、海外へ渡航することです 。
日本は世界トップクラスの医療水準を誇り、特にがん治療や再生医療、精密な人間ドックなどが海外の富裕層から大きな注目を集めています 。政府も経済戦略の一環としてこれを推進しており、市場規模は2024年時点で7,840億円、将来的にはさらに大きく成長すると予測されています 。

特に中国からの需要は大きく、高度な検診やがん治療を求めて来日するケースが目立ちます 。
しかし、この華やかな側面の裏で、いくつかの見過ごせない問題が起きているのです。
問題点① なぜ?外国人観光客への「高額請求」トラブル

最近、短期滞在の外国人が日本の病院で治療を受けた際、日本人では考えられないような高額な医療費を請求され、トラブルになるケースが報道されています。
「国籍で差別している!」という声も上がりますが、これには日本の医療費制度の仕組みが深く関係しています。
日本の医療費は「2つの価格」でできている

日本の医療費には、大きく分けて2つの仕組みがあります。
👨🏻⚕️保険診療
私たちが普段利用しているもので、国民健康保険などの公的医療保険が適用されます。医療行為ごとに国が定めた価格(診療報酬)があり、全国一律「1点=10円」で計算されます 。窓口での支払いは、年齢や所得に応じて1〜3割の自己負担で済みます 。
👨🏻⚕️自由診療
公的医療保険が適用されない治療のことで、美容整形や一部の先進医療などがこれにあたります。価格は病院が自由に設定できます 。
観光などで日本を訪れる短期滞在の外国人は、日本の公的医療保険に加入していないため、原則として「自由診療」の対象となります 。
「1点=10円」は日本人だけの特別価格

「自由診療なら、保険診療と同じ『1点=10円』で計算して、全額(10割)を請求すればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、実は『1点=10円』という価格は、私たちが納めている保険料や税金によって支えられている、いわば「割引価格」なのです 。
外国人観光客の治療には、日本人にはない追加コストもかかります。
💰️ 通訳の手配費用
💰️ 海外の保険会社とのやり取りなど、複雑な事務手続き
💰️ 言葉の壁によるコミュニケーション時間の増加
こうした理由から、多くの病院では、自由診療の外国人に対して「1点=20円」や「30円」といった、本来のコストを反映した価格を設定しています。
ある調査では、病気によっては日本人の保険診療価格の3.6倍以上の請求額になるケースも報告されています 。
疾患・治療 | 日本人(保険診療)との価格比較(目安) |
虫垂炎(入院) | 1.22倍 |
出血性の膀胱炎(外来) | 2.21倍 |
大腿骨骨折の手術(入院) | 3.59倍 |
重症肺炎(入院) | 3.66倍 |
この価格差が、予期せぬ高額請求となり、「不当な差別だ」という訴訟にまで発展する原因となっているのです。
問題点② 病院が悲鳴!深刻化する「医療費未払い」

もう一つの深刻な問題が、医療費の未払いです。高額な治療費を支払わずに帰国してしまう、いわゆる「治療逃げ」が後を絶ちません。
厚生労働省の調査によると、外国人患者を受け入れている病院の約2割で未払いが発生しており、その被害は深刻です 。
💰️ 一件あたりの最高未払い額は1,846万円
💰️ 月間の未払い合計が500万円を超える病院も
この未払いの負担は、すべて病院が背負うことになります。これが続けば病院経営を圧迫し、地域医療の質の低下や、最終的には私たちの保険料負担の増加につながる恐れも指摘されています 。
未払いの理由は「治療逃げ」だけじゃない

未払いが起きる理由は、悪意のあるケースだけではありません。
😥支払い能力がない
旅行中に大怪我をしてしまい、単純に高額な医療費を支払えない 。
😥言葉の壁
支払い方法や手続きの説明が理解できず、支払わずに帰国してしまう 。
😥文化の違い
日本では当たり前の「後払い」に慣れておらず、支払いを忘れてしまう(海外では前払いやデポジットが一般的)
政府も対策として、高額な未払いを起こした外国人の情報を出入国在留管理庁と共有し、将来の入国を制限する仕組みを導入していますが 、これは病院が被った損失を補填するものではなく、根本的な解決には至っていません。
問題点③ 「医療観光客」と「病気になった観光客」の混同

この問題の根底には、性質の全く異なる2つのグループを混同している、という構造的な課題があります 。
😷 計画的な「医療観光客」
十分な資金を用意し、専門のコーディネーターを通じて計画的に来日する富裕層。支払いトラブルは起きにくい 。
😷 突発的な「病気になった一般観光客」
旅行中に予期せぬ病気やケガに見舞われた人。高額な医療費の準備がなく、トラブルになりやすい。
政府が推進しているのは前者ですが、医療現場で問題となっているのは圧倒的に後者です。
しかし、この区別が曖昧なまま議論が進むことで、一般観光客のためのセーフティネット作りが遅れてしまっているのです。
どうすればいい?私たちにできることと今後の課題

この複雑な問題を解決するためには、多角的なアプローチが必要です。
💉【予防策】民間医療保険への加入徹底
訪日外国人には、十分な補償内容の旅行保険への加入を強く推奨、将来的には義務化も検討すべきです。日本到着後でもオンラインで加入できる、治療費1,000万円まで補償される保険もあります。
💉【病院側の工夫】分かりやすい情報提供
多言語での案内や、治療前に概算費用を提示すること、クレジットカードなど多様な決済手段を導入することが、未払いを防ぐ上で効果的です 。
💉【国の役割】セーフティネットの構築
一部の自治体では、回収不能な医療費を補てんする制度がありますが、残念ながら旅行者は対象外です 。国全体で、医療機関を守るための仕組み作りが求められます。
まとめ:おもてなしと持続可能性のバランスを

医療ツーリズムは、日本の医療の素晴らしさを世界に示し、経済を潤す大きな可能性を秘めています。しかしその一方で、高額請求トラブルや医療費未払いといった深刻な課題も抱えています。
外国人観光客を温かく迎え入れる「おもてなし」の心と、日本の優れた医療制度を守り続ける「持続可能性」。この二つのバランスをどう取るか、社会全体で考えていくことが今、求められています。
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