一時期、テレビのニュースや新聞でその名を聞かない日はないほどだった「カミツキガメ」。人の指を噛みちぎるほどの強力な顎、在来種を脅かす食欲、そして日本の河川に忍び寄る姿は、多くの人々に衝撃と恐怖を与えました。
しかし、あれほど騒がれていたのに、最近ではすっかり話題に上らなくなりました。「カミツキガメはいなくなったの?」「数が減ったのかな?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。彼らは本当に日本の生態系から姿を消したのでしょうか?

その答えは「いなくなった訳ではないが、人知れぬ激しい戦いの末、その脅威が管理下に置かれている」です。
話題のワダイでは、「カミツキガメは現在どうなったのか?」という疑問に答えながら、彼らがニュースから姿を消した裏側を探っていきます。
なぜあれほど大問題になったのか? 脅威のおさらい
まず、なぜカミツキガメがこれほどまでに恐れられたのか、その理由を簡単におさらいしましょう。
ペットが野生化

1960年代にアメリカからペットとして輸入されました。しかし、最大で50cmを超える大きさに成長するため、飼い主が持て余し、川や沼に放流したことで野生化が進みました。
驚異的なパワー

なんと260kgもの力で噛みつく顎を持ち、人間の指など簡単に砕いてしまいます。その攻撃的な性質も相まって、非常に危険な存在でした。
生態系の破壊者

雑食性で、魚、昆虫、鳥、さらには小型の哺乳類まで、動くものなら何でも食べてしまいます。日本の繊細な生態系のバランスを根底から覆す「侵略者」だったのです。
驚異の繁殖力

一度に20〜50個、多いときには100個もの卵を産み、寿命は80年にも及ぶとされています。放置すれば、爆発的に増殖する可能性を秘めていました。
まさに、日本の自然にとって悪夢のような存在だったのです。
水面下で繰り広げられた「カミツキガメ掃討作戦」
メディアが連日その恐怖を報じる裏で、行政と専門家、そして市民による大規模な対策が始まっていました。これこそが、私たちがカミツキガメの名を聞かなくなった最大の理由です。
法による包囲網「特定外来生物」への指定

まず、国が動きました。2005年、カミツキガメは「特定外来生物」に指定されます。
これにより、
🐢 輸入、飼育、運搬、放流の一切が禁止
🐢 違反者には最大300万円の罰金
という厳しい規制が敷かれ、これ以上国内にカミツキガメが増えることを法的に阻止したのです。
激戦地・千葉県での大規模な駆除活動

カミツキガメの生息が特に集中していたのが千葉県です。ここでは、2007年から全国でも類を見ない大規模な捕獲作戦が開始されました。
🐢 罠による成体の捕獲
カゴ罠などを川に仕掛け、成体を捕獲。
🐢 探知犬の導入
産卵場所を特定するため、卵の匂いを嗅ぎ分ける探知犬を投入。
🐢 市民参加の「人海戦術」
市民からの目撃情報を基に、職員やボランティアが一体となって捜索・捕獲する体制を構築。
これらの地道で過酷な活動の結果、千葉県だけで2024年までに19,280匹以上ものカミツキガメが捕獲されました。
カミツキガメの意外な弱点

強力な生命力を持つカミツキガメですが、意外な弱点がありました。それは「日本の冬の寒さ」です。
元々暖かい地域に生息していた彼らは、日本の厳しい冬を越すのが苦手です。冬眠中に体力が尽きてしまったり、免疫力が低下して病気になったりすることが多く、これが爆発的な増殖をある程度抑制する一因にもなりました。
結局カミツキガメは、どうなったのか?

「結局カミツキガメはどうなったの?」という問いへの答えは、決して問題が自然消滅したからではありません。
国による法規制、行政と専門家による地道な駆除活動、そして市民の協力という、人間側の不断の努力によって、その脅威が「管理できるレベル」にまで抑え込まれ、目に見える形での被害が減ったからです。
ニュースは「未知の脅威」や「緊急事態」を報じますが、問題が管理下に置かれ、地道な対策フェーズに入ると、次第に取り上げられなくなります。カミツキガメの件は、まさにその典型例と言えるでしょう。
私たちの生活とこれから

現在もなお、推定数千匹のカミツキガメが野生に潜んでいると言われています。活動が活発になる5月から9月にかけては、今でも駆除活動が続けられています。
この問題は、私たちに「ペットを飼う責任」を強く問いかけています。安易な気持ちで外国の生き物をペットにし、最後まで面倒を見ずに自然に放つ行為が、どれほど深刻な事態を引き起こすか。カミツキガメの存在は、その教訓を静かに伝え続けています。
もし川辺などでカミツキガメらしきカメを見かけた場合は、絶対に手を出さず、速やかにお住まいの自治体や警察に連絡してください。
私たちの知らないところで続く戦いのおかげで、今の平穏な環境が守られているのです。
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