富士通の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA(モナカ)」が、いよいよ販売段階へ進みます。2026年9月14日の発表によると、CPU単体と搭載サーバーの販売開始は同年11月。
クラウド事業者やサーバーメーカー向けにも、CPUそのものを世界へ売り出します。
144コア、2nm、最大3.8GHz
数字だけでも目を引きますが、MONAKAは自作パソコンに載せるCPUではありません。政府や企業のデータを扱い、AIや科学技術計算を動かすサーバー向けの製品です。
私が期待しているのは、その速さ以上に「日本で設計したCPUを、世界の計算基盤の選択肢にする」という挑戦です。では、半導体の復活と、日本が自前のAI基盤を持つことは、どうつながるのでしょうか。
出典:富士通の販売開始発表
MONAKAとは?富岳の技術を、もっと広い市場へ
MONAKAは、スーパーコンピューター「富岳」のCPU「A64FX」で培った技術を生かしながら、データセンターなど、より幅広い用途を狙うArmベースのCPUです。
富岳での成果が、一般の企業やクラウドサービスを支える製品へ広がる。ここが今回の面白いところです。
144コア・2nmは、何のためにある?
コアは、計算を担当する働き手のようなものです。MONAKAは1CPU当たり144コアを備え、多くの処理を並行して進める構成になっています。
また、計算する部分には2nm、データを一時保存するキャッシュや入出力部分には5nmの製造技術を使います。計算部分とキャッシュを立体的に重ね、役割に応じて製造技術を組み合わせる設計です。
狙いは速さと省電力、コストの両立。AIを使う人が増えるほど、処理能力だけでなく、電気代や冷却設備の負担も重要になります。「速いCPU」から一歩進み、「使い続けられる計算基盤」を目指しているわけです。
なぜ日本が「自前のAI基盤」を必要とするのか

普段の調べ物なら、海外の便利なAIサービスを使えば十分かもしれません。ところが、政府の機密情報や企業の未公開技術を扱うと、話が変わります。
どこにデータを置くのか。誰が管理し、どの国の法律に従うのか。外部のサービスに障害が起きたとき、自分たちで業務を続けられるのか。AIの賢さだけでは決められない問題が出てきます。
そこで注目されるのが「ソブリンAI」です。自国や自組織の管理方針に沿って、データやAI基盤を管理・運用する考え方です。
富士通は、データ保護、自律的な運用、サプライチェーンの透明性などを重視しています。MONAKAも、計算中のデータをハードウェアの暗号機能で保護する仕組みを備えます。
私は、海外のAIを使うことと、日本に計算基盤を持つことは両立すると考えています。便利なサービスは使う。そのうえで、外に出しにくいデータを扱う選択肢も持つ。企業のAI導入を考えると、この使い分けには現実的な価値があります。
「国産CPU」なのに、製造はTSMC?

MONAKAは富士通が日本で設計・開発しますが、半導体の製造委託先は台湾のTSMCです。「国産」という言葉を、設計から製造まで全部日本で完結する意味に受け取ると、実態を見誤ります。
CPUの設計と、半導体工場での製造、さらにサーバーへの組み立ては、別の工程です。富士通は搭載サーバーを石川県かほく市の笠島工場で製造し、部品の出所や製造履歴を追跡できる体制を整えます。
国内で設計し、製品や運用を管理できる範囲が広がることには意味があります。しかし、先端半導体の製造を海外に頼る以上、供給面のリスクまで消えるわけではありません。
MONAKAへの期待は、こうした限界も含めて考えたいところです。日本製というラベルだけで安全を判断せず、調達先や更新、保守まで確かめる必要があります。
GPU以外にも、AIを動かす選択肢を
MONAKAは、AIが学習済みの知識を使って回答などを出す「推論」の処理を強化しています。富士通はCPUだけで実用的なAI推論基盤を構築できると説明し、空冷の設備にも導入できる点を打ち出しています。
これは「GPUが不要になる」という話ではありません。どのAIを、どの規模で、どれくらいの速さで動かすかによって、適した機器は変わります。
社内向けのAIを導入する際、既存の設備を活用しながら、電力や冷却の負担を抑えられるなら魅力的です。最高性能を競うだけでなく、使える場所を増やすこともAI普及の力になります。
ただ、実際の評価では導入価格、回答速度、同時に使える人数、ソフトウェアの移行負担まで見る必要があります。製品の価値が決まるのは、スペック表よりも利用現場です。
MONAKAはいくらになる?競合価格から考える

気になるのは、「そのCPU、いくらで買えるのか」です。2026年10月4日時点で、MONAKA単体と搭載サーバーの具体的な公開価格は確認できませんでした。
参考になるのが、競合のサーバー向けCPUです。Intelの144コア「Xeon 6780E」は推奨顧客価格9,535ドル。AMDの128コア「EPYC 9755」は発売時の1,000個購入時単価が12,984ドルでした。
比較用に1ドル=150円と仮定すると、約143万円と約195万円です。販売条件も性能も異なるため、単純比較はできませんが、このクラスのCPUの価格規模は見えてきます。
ここからの筆者の推測では、MONAKAもCPU1個で税別100万〜200万円程度が一つの想定です。先端製造技術や独自開発の費用は価格を押し上げますが、既存製品から乗り換えてもらうには、価格面の競争力も必要でしょう。
2CPU搭載のサーバーなら、CPUだけで200万〜400万円。大容量メモリやSSD、専用基板などを加え、一式で600万〜1,200万円程度になる可能性も考えられます。ただ、このサーバー価格は構成を仮置きした粗い概算で、メモリ容量や保守、AIソフトウェアの契約によって大きく変わります。
個人には高額でも、企業にとっては数年間の電気代や運用費を含めて判断する投資です。私が知りたいのも、「日本製だから買う」から一歩進み、移行費用まで含めて選ぶ理由があるのか、という点です。
MONAKA-XとRapidus、その先にある「復活」
後継のMONAKA-Xには、AI処理に特化した専用回路「NPU」を搭載する計画があります。富士通は2025年12月の説明会で、2029年の製品投入を目標に、Rapidusへの製造委託を前提として調整していると説明しました。
ただし、製造技術を提供できる時期などの課題があり、委託先は最終決定していないとも明言しています。「MONAKA-Xは必ずRapidus製になる」とは、まだ書けません。

実現すれば、日本でCPUを設計する力と、先端半導体を製造する力が、さらに近づきます。私が「国産CPU復活」という言葉に期待を込めるとすれば、こうした技術を継続的な事業へつなげられるか、という点です。
MONAKA一つで日本の半導体産業全体が復活するとは思いません。それでも、国内の需要だけに頼らず、世界の顧客にも選ばれるCPUを売ろうとしている。その挑戦には、わくわくします。
今後見たいのは、華やかな性能発表だけでなく、実際にどこへ導入され、使い続けられるのかです。「日本にも選べる基盤がある」という状態を、事業として定着させられるか。MONAKAの本当の勝負は、販売開始から始まります。

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