2026年に入り、ビジネス用パソコンの調達コストが急騰しています。これまで10万円台で購入できていた標準的なノートパソコンが、今や15万円を超えることも珍しくありません。この値上げの正体は、単なるインフレではなく、パソコンの心臓部を支える「メモリ」の極端な需給バランスの崩壊にあります。
話題のワダイでは、なぜ今パソコンの価格が上がっているのか、そしてこの状況がいつまで続くのか、その背景にある「AI需要」と「半導体業界の変革」を詳しく解説します。
パソコン価格を押し上げる「DRAM」と「NAND」の高騰
現在、パソコン本体の価格を押し上げている最大の要因は、内部パーツである半導体メモリの仕入れ価格上昇です。パソコンには主に2種類のメモリが搭載されており、その両方が値上がりしています。
DRAM(ディーラム)

DRAMは、コンピューターがデータを一時的に展開して処理を行うためのメインメモリです。一般的に「メモリ8GB」「16GB」と表記されるのはこのパーツを指します。
作業机の広さに例えられ、この容量が不足するとパソコンの動作は著しく低下します。
NAND(ナンド)フラッシュ

NANDフラッシュは、電源を切ってもデータを保持できる記憶媒体で、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の主原料となります。写真や書類などのデータを保存する「書庫」の役割を果たします。
パソコンメーカーにとって、これらDRAMとNANDの調達コスト上昇は避けて通れない課題となっており、そのコスト増がダイレクトに販売価格へ転嫁されています。
メモリを飲み込む「AIデータセンター」の建造ラッシュ

なぜメモリがこれほどまでに不足しているのでしょうか。その最大の理由は、世界中で加速している「AI専用データセンター」の建設にあります。
ChatGPTをはじめとする生成AIを動かすには、膨大な計算能力を持つサーバーが不可欠です。AI用サーバーは、私たちが普段使っているパソコンとは比較にならないほどのメモリを消費します。
✅️市場シェアの逆転:かつてメモリ市場の主役はパソコンやスマートフォンでしたが、現在はAI処理を行うデータセンター向けが市場の半分以上を占めるようになりました。
✅️メーカーの優先順位の変化:マイクロンやサムスンといった大手半導体メーカーは、利益率が高く、かつ大量一括注文が見込めるデータセンター向け供給を最優先しています。その結果、一般向けのパソコン用メモリの割り当てが後回しにされ、市場価格が跳ね上がっているのです。
2026年、なぜAI需要はここまで爆発したのか

数年前の「AIブーム」は期待先行の部分もありましたが、2026年現在は、AIがビジネスの基幹インフラとして定着しました。
企業の競争力を維持するために、より高性能なAIモデルの導入が必須となり、それを支えるデータセンターの需要に歯止めがかからなくなっています。
また、各国政府が経済安全保障の観点から自国内へのデータセンター誘致を国策として進めていることも、需要過多に拍車をかけています。
SSDやグラフィックボードへの深刻な波及

メモリ不足の影響は、単なる作業用メモリ(DRAM)だけにとどまりません。パソコンの主要パーツ全体に連鎖的な悪影響を及ぼしています。
✅️SSDへの影響:DRAMの生産ラインとSSDの主原料であるNANDの生産ラインは一部で設備を共有しています。メーカーが利益の大きいDRAMの生産を優先するため、SSDの供給が絞られ、結果としてストレージ価格も上昇しています。
✅️グラフィックボード(GPU)の深刻な不足:映像処理やAI計算を担うグラフィックボードには、VRAM(ビデオメモリ)という専用の高速メモリが搭載されています。ここでもAIサーバーとの激しい奪い合いが起きており、グラフィック性能に優れたパソコンほど、価格上昇幅が大きくなっています。
この状況は「2028年」まで改善しない

世界最大級のメモリメーカーであるマイクロンの幹部によれば、この深刻な需給逼迫は少なくとも2028年まで続くと予測されています。その理由は、半導体製造という物理的な制約にあります。
理由1:工場建設のリードタイム
不足を解消するために新しい工場を建設しても、実際に稼働し、製品が市場に出回るまでには3年から5年の歳月が必要です。
理由2:認証に要する時間
AI向けの高度なメモリは品質チェックが非常に厳しく、新工場のラインが安定して出荷できるまでには膨大な「認証期間」が必要となります。
理由3:生産効率の追求
メーカー側は現在、生産効率を最大化するために製品の種類を絞り込んでいます。これにより、安価な低容量モデルや特殊な構成のメモリが市場から姿を消し、私たちが選べる選択肢が狭まっています。
今後、パソコンの価格はどこまで上がるのか

これまでの「10万円でそれなりのパソコンが買える」という常識は、2028年まで通用しなくなると考えるべきでしょう。かつて10万円前後が相場だった標準的なビジネスノートPCは、今や15万円から20万円が「適正価格」となる時代に突入しました。
特に懸念されるのが安価なモデルの消滅です。利益率の低いエントリーモデルは部品確保の優先順位が最も低く、ラインナップ自体が削減される傾向にあります。
これを受けて高品質な中古パソコンの需要が急増していますが、中古市場も結局は新品の流通量に左右されるため、長期的には中古価格の底上げも避けられない見通しです。
まとめ:ビジネスPC調達の新しい考え方

AI革命の裏側で起きているこの「メモリ不足」は、一過性のブームではなく、産業構造の変化に伴う長期的な課題です。2028年までは「待てば安くなる」という状況は期待しにくいため、企業や個人は以下のような対策を検討する必要があります。
✅️予算計画の見直し
パソコン1台あたりの調達コストを従来の1.5倍程度に見積もっておく必要があります。
✅️早期の確保
さらなる値上げや納期遅延を想定し、必要な買い替えは余裕を持って進めるべきです。
✅️スペック選びの厳選
AIを業務で活用するのであれば、あえて高価でも高性能なモデルを選び、1台のパソコンを長く使う(延命する)という戦略も有効です。
私たちは今、パソコンが「安価な消耗品」から「計画的な投資が必要な資産」へと変わる転換点に立っています。


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