『マイクラ』から消えた創造主:なぜ「ノッチ」の痕跡はゲームから排除されたのか

ゲーム・アプリ関係
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世界で最も売れたゲーム『Minecraft(マイクラ)』。その産みの親であるマルクス・ペルソン氏(通称:Notch、ノッチ)は、かつてプレイヤーたちから神のように崇められる存在でした。

しかし現在、ゲーム内で彼の名前を目にすることはほとんどありません。かつて存在した彼の名を冠するアイテムの通称も、起動時のメッセージも、静かに、しかし徹底的に排除されました。

なぜ「創造主」は、自身が作った世界から追放されることになったのか。その真相は、ゲームのアップデート内容よりも複雑で、少しほろ苦い現実社会の問題が絡んでいます。

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「ノッチのリンゴ」がただの「リンゴ」になった日

古参のクラフターなら、「ノッチリンゴ(Notch Apple)」という言葉に聞き覚えがあるはずです。

ノッチリンゴ

正式名称は「エンチャントされた金のリンゴ(Enchanted Golden Apple)」。食べると再生能力や耐性が付く最強のアイテムですが、かつてはコミュニティの間で、敬意と親しみを込めて開発者の名前で呼ばれていました。

しかし、このアイテムを取り巻く環境は大きく変わりました。 かつては金ブロック8個とリンゴでクラフトできましたが、バージョン1.9でレシピが削除され、現在ではチェストから見つけるしかない「古代の遺物」のような扱いになっています。

レシピ削除自体はゲームバランスの調整でしたが、これが象徴的な出来事となりました。「ノッチリンゴ」という通称は徐々に使われなくなり、公式Wikiや関連メディアでも、彼とアイテムを結びつける表現は避けられるようになっていったのです。

それはまるで、彼とゲームとの関係が断たれていく予兆のようでした。

決定的な「名前の削除」

ノッチ氏の痕跡が意図的に消されたことが決定づけられたのは、2019年3月のアップデートです。

それまでマイクラのタイトル画面には、黄色い文字でランダムなメッセージ(スプラッシュテキスト)が表示されていました。その中には、開発者を称える以下の言葉が含まれていました。

“Made by Notch!”(ノッチ作!)
“The Work of Notch!”(ノッチの作品!)
“110813!”(ノッチ氏の結婚記念日)

しかし、マイクロソフトとMojangはこのアップデートで、これらのテキストを全て削除しました。ゲームのエンドクレジット(スタッフロール)という目立たない場所を除き、彼の名前はゲームの表舞台から完全に姿を消したのです。

なぜ「絶縁」に至ったのか?

ノッチ氏

開発から離れたとはいえ、なぜ功労者の名前をこれほど徹底して消す必要があったのでしょうか。その理由は、彼がSNS(主にTwitter)で行った一連の過激な発言にあります。

巨万の富を得て隠居生活に入ったノッチ氏は、次第に孤独を深め、SNS上で極端な思想に傾倒していきました。

差別的発言の連鎖

彼はトランスジェンダーの人々に対し、「女性ではない」「精神疾患だ」といった差別的な発言を繰り返し、LGBTQ+コミュニティや多くのファンから激しい非難を浴びました。

政治的な陰謀論への傾倒

さらに、白人至上主義的なスローガンとして知られる「It’s okay to be white」という言葉を投稿したり、過激な陰謀論「Qアノン(QAnon)」を支持するような発言を行ったりしました。

Qアノン

「誰でも遊べる、すべての人に開かれたゲーム」を目指し、多様性(ダイバーシティ)を重視するマイクロソフトにとって、創造主のこうした言動は、もはや看過できない「ブランドリスク」となってしまったのです。

10周年イベントへの「招待拒否」

両者の決別が決定的となったのが、2019年5月に行われた『マインクラフト』10周年記念イベントです。

ゲームの歴史を祝う晴れ舞台に、産みの親であるノッチ氏は招待されませんでした(招待拒否)。 当時、マイクロソフトの広報担当者は海外メディアに対し、異例とも言えるほどはっきりと、その理由を述べています。

広報担当
広報担当

彼のコメントや意見は、マイクロソフトやMojangのものを反映しておらず、マインクラフトの代表的なものではありません

これは事実上の「絶縁宣言」でした。

作品は誰のものか

現在、ノッチ氏は自身の開発したゲームから切り離され、莫大な資産と共に孤独な「外野」の立場にいます。

彼が作り出したブロックの世界は、今や彼の手を離れ、世界中の子供たちやクリエイター、そして現在の開発チームのものとなりました。「ノッチリンゴ」という呼び名が風化したように、彼個人の思想や痕跡は、ゲームの健全な成長のために「アップデート」されてしまったのかもしれません。

かつての産みの親がゲーム内にいないこと。それは寂しいことであると同時に、マイクラという巨大な文化を守るために、避けては通れない道だったと言えるでしょう。

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