メイショウ軍団の「義理と人情」が奇跡を起こした日。〜2001年宝塚記念、私の絶叫〜

メイショウドトウ スポーツ
スポンサーリンク

週末の競馬新聞を広げると、必ずと言っていいほど目にする「メイショウ」の文字。 「メイショウ〇〇」という馬があまりに多いため、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、私にとってこの名前は特別な響きを持っています。 それは単なる冠名(かんむりめい)ではありません。「義理と人情」の象徴であり、そして何より、私が人生で最も声を枯らし、最も震えた、あの日の記憶そのものだからです。

今回は「メイショウ軍団」の正体と、私が阪神競馬場のスタンドで目撃したメイショウドトウの奇跡について綴りたいと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

そもそも「メイショウ」とは何者か

まず、この名前の主について少しだけ触れておきましょう。オーナーは、故・松本好雄(まつもと よしお)氏です。

松本好雄

名前の由来はシンプルです。松本オーナーの出身地である兵庫県「明石」と、名字の「松本」。その頭文字を繋げ、名将軍の「名将」とかけたものだそうです。

なぜこれほど数が多いのでしょうか。それは松本オーナーが「頼まれたら断らない」男だからです。

「この馬を買ってほしい」

と生産者や調教師に頼まれれば、たとえ血統が地味でも、値段が安くても、損得勘定抜きで購入します。

メイショウ軍団

現代の競馬界では稀有な、昭和の任侠映画のような「義理と人情」で走る軍団、それがメイショウなのです。

そんな泥臭い背景を持つ馬だからこそ、エリートを倒した時のカタルシスは計り知れません。 その最大のドラマが、2001年の初夏に待っていました。

怪物・テイエムオペラオーという絶望

当時、競馬界には絶対的な王者がいました。「世紀の覇王」テイエムオペラオーです。 そして、その影にはいつも、私の愛する馬、メイショウドトウがいました。

テイエムオペラオー

2000年の宝塚記念から、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念、翌年の天皇賞(春)。メイショウドトトウはG1レースで5回連続、オペラオーの「2着」に敗れ続けました。

何度挑んでも、跳ね返される。

「また2着か……」

テレビの前で溜息をつく日々でした。 ですが、あの日は違いました。私はある決意を持って、阪神競馬場へと足を運んでいたのです。

2001年6月24日、阪神競馬場にて

阪神競馬場

梅雨の晴れ間となった6月の阪神競馬場。 強い日差しが照りつける中、私はスタンドの人混みに揉まれていました。手には汗で少し湿った、メイショウドトウの単勝馬券。

「今日こそは。今回だけは……頼む!」

周りの空気も異様でした。6万人の観衆の多くが、王者の強さを認めつつも、

「もしかして、今度こそ・・」

と言った期待を胸にいだいていました。

15時30分、打倒テイエムオペラオーの期待を一心に背負い、ゲートが開きます。

レースは淡々と進み、勝負の4コーナーへ。 いつものように、テイエムオペラオーが早めに先頭に立ちます。

「ああ、やっぱり強いのか」

スタンドに諦めの空気が漂いかけた、その時でした。

外から、怒涛の勢いで上がってくる馬体が一つ。 メイショウドトウです。

いつもならここで突き放されるはず。ですが、今日のメイショウドトウは違いました。安田康彦騎手のアクションに応え、王者に並びかけ、そして、前に出たのです!

その瞬間、私の理性のタガが外れました。

「いけええええええええッ!!!」

喉が張り裂けんばかりに叫んでいました。 周りの見知らぬオジサンも、若者も、全員が叫んでいました。 「差せ!」「そのまま!」「ドトウううう!!」

地響き。まさに物理的にスタンドが揺れるような轟音でした。 私の絶叫が届いたかのように、メイショウドトウが完全にテイエムオペラオーをかわします。 そのままゴール板を駆け抜けた瞬間、私の視界は涙で歪みました。

「やった……! ついに、ついにやったぞぉぉ!!」

握りしめた拳が震えていました。 近くにいた見ず知らずのファンと、「よかった、本当によかった」と肩を叩き合いました。

あれは単なるギャンブルの的中ではありません。「義理と人情」が、「不屈の魂」が、絶対王者のエリートをねじ伏せた瞬間に立ち会えた感動だったのです。

鞍上の安田騎手も男泣きしていました。スタンドからは自然と「ヤスダ」コールが湧き起こります。私も枯れた声で、精一杯の名前を叫びました。

まとめ:あれから20年以上が経って

今でも週末の競馬新聞で「メイショウ」の文字を見るたび、私はあの日の阪神競馬場の熱気を思い出します。 松本オーナーが損得抜きで馬を愛し続ける限り、この名前は競馬場にあり続けるでしょう。

現在、引退したメイショウドトウはフォスターホースとして余生を過ごしています。 SNSで見せる愛らしい姿に癒やされながら、私は時折、あの日握りしめた馬券の感触と、自分の叫び声を思い出すのです。

引退生活

「メイショウ」とは、ただの冠名ではありません。 あの日、私たちが夢見た「不屈のロマン」そのものなのですから。

コメント