今ネットで大きな話題になっているのが、ショートスリーパーといえば堀大輔さん。
堀さんは長年にわたり極端に短い睡眠時間で生活していると公言している人物で、2024年のインタビューでも平均睡眠時間を45分程度と説明していました。
そして2026年8月、高須幹弥さんとの対談動画が公開されると、ショートスリーパーをめぐる議論が一気に拡大。堀さんは「1日30分睡眠」を7日間ライブ配信する計画も明らかにしています。
この記事で二人のやり取りの是非を論じるつもりはありませんがとても気になることがあります。

そもそもショートスリーパーなんて本当にいるの?
調べてみると、これが思っていた以上に興味深い世界でした。
そもそも「ショートスリーパー」とは何なのか?
最初に、かなり重要なことがあります。
単に「睡眠時間が短い人」と、本来の意味で研究されているショートスリーパーは分けて考えた方がよさそうです。
例えば毎日仕事が忙しく、

睡眠4時間しか取れてないんですよ
という人がいたとしても、その人がショートスリーパーとは限りません。単純に寝不足という可能性もあります。
一方、睡眠研究では「Familial Natural Short Sleep(家族性自然短時間睡眠)」など、生まれつき少ない睡眠でも日中の強い眠気や明確な機能低下を示さない人たちが研究されています。
研究上は、おおむね4~6.5時間程度の睡眠でも自然に目覚め、日中に問題なく生活できるような特性として説明されています。
つまり、「頑張って4時間しか寝ない人」と、「4時間くらいで自然に睡眠が終わる人」は似ているようで別物なのです。
実は「生まれつき短くて大丈夫な人」は研究で見つかっている

さらに面白いのが遺伝子です。
2009年にはDEC2と呼ばれる遺伝子の変異と自然な短時間睡眠との関連が報告され、その後もADRB1、NPSR1、GRM1など複数の遺伝子が研究対象になってきました。
そして2025年には、SIK3という遺伝子の変異と自然な短時間睡眠との関連についても新たな研究が発表されています。
つまり、「人間は全員、同じ時間だけ眠らなければならない」というほど単純ではないようです。
実際に、生まれつき他の人より少ない睡眠で生活できる人が存在すること自体は、研究でも確認されつつあります。
ただし、ここで大きな勘違いをしてはいけません。
こうした人たちは非常に珍しい存在です。研究論文でもNatural Short Sleeperは希少で、研究例そのものが限られていることが指摘されています。
「ショートスリーパーが存在する」
ことと、
「誰でもショートスリーパーになれる」
ことは、まったく別の話なのです。
ところでナポレオンは本当に3時間しか寝なかった?

ここで少し歴史を振り返ってみましょう。
ショートスリーパーという言葉が一般的になるはるか以前から、世界には「ほとんど眠らなかった」とされる人物がたくさんいます。
最も有名なのがナポレオンでしょう。
「ナポレオンは1日3時間しか寝なかった」
という話を一度は聞いたことがあるかもしれません。
ただ、調べてみると話はそれほど単純ではありません。
戦争中などに極端に睡眠時間が短くなっていたという逸話がある一方、短い睡眠を何度も取ったり、状況によっては長時間眠ったという話もあります。
つまり「毎日きっちり3時間睡眠で生涯を過ごした」と考えるのはかなり危険です。
そもそも200年以上前の人物です。現代のようにスマートウォッチで睡眠時間を記録していたわけでもありません。
ナポレオンを「医学的に確認されたショートスリーパー」と呼ぶことはできないでしょう。
エジソンは「眠らない天才」だったのか

電球の実用化などで知られるトーマス・エジソンも、短時間睡眠の代表としてよく名前が挙がります。
エジソンは睡眠そのものに否定的な発言をしたことで知られ、長時間働く人物でもありました。
ところがエジソンの場合、面白い証拠が残っています。
昼寝している写真です。
米国のヘンリー・フォード博物館には、1921年にキャンプ中のエジソンが木の下で眠っている写真が所蔵されています。
ほかにも作業場などで眠る姿が写真に残されています。
「夜の睡眠時間が短かった」という話だけを切り取ると超人のようですが、実際には眠くなったときに昼寝を取り入れていた可能性があります。
つまりエジソンも、
「ほとんど眠らなかった人」
というより、
「夜にまとめて眠ることにこだわらなかった人」
と考えた方が実像に近いのかもしれません。
ダ・ヴィンチ「4時間ごとに20分睡眠」はかなり怪しい

さらに強烈なのがレオナルド・ダ・ヴィンチです。
ネットでは、「ダ・ヴィンチは4時間ごとに20分だけ眠っていた」という話が大量に出てきます。
これなら1日の睡眠時間は合計わずか2時間。もし本当なら、とんでもないショートスリーパーです。
ところが、この話を裏付ける信頼できる当時の記録が見つかっているわけではありません。
レオナルドに関する歴史資料を扱うイタリアの施設も2026年、この有名な「多相睡眠」の逸話について、当時の文書や同時代の伝記から裏付ける証拠は確認できないと解説しています。
どうやら「天才だからほとんど眠らなかった」というイメージが、後世になってどんどん強化されていった可能性があります。
これはナポレオンにもエジソンにも共通する部分かもしれません。
歴史上の偉人には、
「人より働いた」
↓
「ほとんど休まなかった」
↓
「ほとんど眠らなかった」
という伝説が生まれやすいのでしょう。
サッチャーの「4時間睡眠」は比較的証言が残っている

一方、比較的近年の人物では、イギリスのマーガレット・サッチャー元首相が短時間睡眠で有名です。
1989年のVanity Fairの記事でも、サッチャーについて「3~4時間程度しか睡眠を必要としない」とする周囲からの評価が掲載されています。
ただし、ここにも注意が必要です。
「4時間程度しか寝ていなかった」という証言があることと、遺伝的なNatural Short Sleeperだったことは同じではありません。
当時の激務によって睡眠時間が短かったのか、それとも本当に生まれつき少ない睡眠で十分だったのか。
今となっては確認する方法がありません。
結局、歴史上の人物について言えるのは、
「短時間睡眠だったという記録や証言は存在するが、現代の研究でいうNatural Short Sleeperだったかどうかは分からない」
というところでしょう。
「短時間睡眠」と「睡眠不足」は同じではない
ここまで読んで、

じゃあ人間って意外と寝なくても大丈夫なのでは?
と思った人もいるかもしれません。
しかし、ここでもNatural Short Sleeperと一般的な睡眠不足を分ける必要があります。
米国睡眠医学会とSleep Research Societyのコンセンサスでは、健康な成人について定期的に7時間以上睡眠を取ることが推奨されています。CDCでも成人の睡眠時間について「少なくとも7時間」が目安とされています。
もちろんこれは全員が「7時間眠らなければならない」という意味ではありません。
人によって必要な睡眠時間には違いがあります。
問題なのは、自分に必要な睡眠時間を意図的に削り続けることです。
睡眠不足については、注意力、反応速度、判断、記憶などへの影響が数多く研究されています。
ここで重要なのは、特定の病気になると決めつけることではありません。
「起きていられる」と「十分に眠れている」は同じではない。
ということを頭に入れておく必要があると思います。

「自分は5時間で平気」は本当に平気なのか?
個人的に今回調べていて一番興味深かったのはここです。
周囲にも、

俺、昔から5時間くらいしか寝ないよ
という人は結構いるのではないでしょうか。
本人が本当にNatural Short Sleeperなら、それで問題なく生活できている可能性はあります。
ただ、
「眠くないから大丈夫」
「仕事には行けているから大丈夫」
「もう慣れたから大丈夫」
だけで判断するのも難しそうです。
睡眠不足では集中力や判断などにも影響が出ることが知られているため、本人の感覚だけでは捉えにくい部分があります。
だからこそ、「ショートスリーパーになるにはどうすればいい?」より、「自分はどれくらい眠ったときに一番調子がいいのか?」を考える方が現実的なのではないでしょうか。
では堀大輔さんの「30分睡眠」はどう考える?

ここで最初の話に戻ります。
研究でNatural Short Sleeperとされる人たちは、一般的には4~6時間台の睡眠が中心です。
そう考えると、堀大輔さんが公言する「30~45分程度」という睡眠時間は、それよりさらに極端です。
少なくとも現在研究されているNatural Short Sleeperの一般的な範囲を、そのまま堀さんに当てはめることはできません。
一方で、堀さん本人が非常に短い睡眠時間で長期間生活していると主張していることも事実です。2024年のインタビューでは、夜間の睡眠とは別に15分程度の仮眠を取ることなども説明しています。
だから現時点でこの記事から、「30分睡眠は本当だ」とか、「そんなものはあり得ない」と判定するつもりはありません。
むしろ今回の騒動をきっかけに調べてみて分かったのは、
「ショートスリーパーという人間は本当に存在する。ただし、それと一般的な人が睡眠時間を削ることは別問題」ということでした。
ショートスリーパーは「眠らない超人」ではなかった
ナポレオン、エジソン、ダ・ヴィンチ、サッチャー。
歴史上、「ほとんど眠らなかった」と語られる人物は何人もいます。
ところが調べてみると、昼寝をしていた人物もいれば、後世に作られた可能性が高い話もありました。
一方、現代の睡眠研究では、遺伝的な要因などによって生まれつき睡眠時間が短いNatural Short Sleeperの存在が研究されています。
つまりショートスリーパーそのものを都市伝説として片付けるのも違うようです。
ただし、それは「人間は睡眠を削れば鍛えられる」という話とは別です。
1日の時間は誰にでも24時間しかありません。
もし睡眠を数時間減らせれば、使える時間が増える。
そう考えるとショートスリーパーに憧れる気持ちはよく分かります。
しかし、本当に重要なのは「何時間まで睡眠を削れるか」を競うことではなく、
「自分に必要な睡眠時間はどれくらいなのか」
を知ることなのかもしれません。
今回の堀大輔さんをめぐる騒動は、普段当たり前のように毎日繰り返している「睡眠」という行為について改めて考えてみる、なかなか興味深いきっかけになりました。
みなさんもより良い睡眠を追及して健康な生活を送りましょう。

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