「YO! YO! ですYO!」。2000年代半ば、誰もが口ずさんだこのフレーズ。お笑い芸人『ですよ。』は、日本テレビ系「エンタの神様」で一世を風靡し、その独特のリズムと「あ~い、とぅいまて~ん」の謝罪ギャグでブラウン管を席巻しました 。
しかし、いつしかテレビでその姿を見かける機会は減り、多くのライトなファンは彼の「今」を知らないでしょう。ですが、『ですよ。』は消えたわけではありませんでした。
彼は今、全く異なる世界ので大活躍しています。その相手は、YouTube界の帝王、ヒカルさん。なぜアナログ時代ともいえる一発屋芸人が、デジタルネイティブのカリスマに愛され、その世界で不可欠な存在となったのか。その物語は、一つの衝突から始まりました。
プロ謝罪師としての現在地

現在の『ですよ。』を支えるのは、テレビタレントとしてではなく、「プロ謝罪師」という唯一無二の肩書です。2019年にTwitter(現X)で開始した「謝罪代行サービス」は、彼の代名詞であるギャグを人のために役立てたいという純粋な想いから生まれました 。
その背景には、若き日にボリビアでサッカー選手として活動していた際、バスジャックに遭い、見知らぬ日本人に助けられた経験があるといいます 。

依頼内容は壮絶で、親孝行ができなかったと悩む女性の依頼で、認知症の母親を半年ぶりに笑わせたという心温まる話もあれば、夫婦喧嘩の仲裁に入り「今の状況が一番迷惑です」と物を投げつけられた修羅場もありました 。
活動は多岐にわたり、沼津ラクーンよしもと寄席などの劇場での営業はもちろん、LINEスタンプ、さらには自身のギャグをひたすら繰り返すスマホゲームまで展開。彼は自身の芸を単なるパフォーマンスから、実用的な「サービス」へと昇華させたのです。
衝突―すべては「面白くない」から始まった

ヒカルとの奇妙な関係は、最悪の出会いから始まります。キングコング梶原雄太(カジサック)のYouTubeチャンネルでの共演時、事件は起きました 。
ヒカルは、その鋭利なスタイルで「ですよ。さんって、やっぱプライベートでも面白くないんすね」と斬り込んだのです 。テレビの文法では、これは「イジり」であり、笑いに変えるのが芸人の定石です。

しかし、『ですよ。』は本気で激怒。「なんだお前?」と不機嫌になり、空気が悪化、ついには撮影を中断して帰ってしまいました 。これは台本のない、生々しい衝突でした。テレビの常識では放送事故ですが、YouTubeでは最高のコンテンツが生まれた瞬間だったのです。
執着の解剖学:なぜヒカルは『ですよ。』を気に入ったのか

ヒカルが『ですよ。』に惹かれた理由は、この衝突そのものにあります。二人の背景は、以下の表のように正反対です。
特徴 | ヒカル(新時代の帝王) | ですよ。(アナログの求道者) |
出自 | ニートから自力で成り上がった起業家 | 元ボリビアのプロサッカー選手という異色の経歴を持つ芸人 |
主戦場 | YouTube、SNS | 営業、ライブステージ |
力の源泉 | 戦略的思考と圧倒的な影響力 | 一つのギャグへの執念と予測不能な人間性 |
価値観 | 「リアル」な人間ドラマこそがコンテンツ | 芸は磨き続ける「道」であり、生き様 |
ヒカルにとって、予定調和なタレントより、本気で怒る『ですよ。』の「生身」は何より価値がありました。また、毎日最低28回ギャグを練習し続けるその求道的な姿勢 は、自らの努力で帝国を築いたヒカルの目に、一種の職人魂として魅力的に映ったのでしょう。
予測不能な『ですよ。』は、ヒカルの動画に欠かせない化学反応を起こす存在となったのです。
「ヒカル効果」と再評価
この関係は、『ですよ。』のキャリアに絶大な「ヒカル効果」をもたらしました。ヒカルの動画に出演することで、テレビを見ていなかった若年層にその名が浸透 。
そして「ヒカルを本気で怒らせた芸人」という逸話は、彼のキャラクターに「媚びない本物」という新たな深みを与えました。この再評価は、彼の主戦場である営業活動にも好影響を与えています。

YouTubeでのバズりが、リアルの仕事に繋がるという現代的な成功モデルを確立したのです。彼らの衝突と和解の物語は、それ自体が何度も参照される人気コンテンツとなり、関係性のすべてがエンターテインメントとして消費される新しい形を生み出しました。
今、最も面白い「面白くない」芸人

テレビから姿を消したと感じていた『ですよ。』は、今、かつてないほど複雑で面白い存在となっています。ヒカルとの出会いは、彼を単なる一発屋から、その人間性そのものがコンテンツとなる稀有なタレントへと変貌させました。
ヒカルに「面白くない」と言われたことで、逆説的に誰よりも「面白い」存在になったのです。彼の物語は、メディアの境界線が溶け合った現代において、芸人の新たな生き方を示しています。
コメント