政府主導で推進され、私たちの生活に急速に浸透してきたキャッシュレス決済。しかしその裏側で、一度は導入したキャッシュレス決済を取りやめ、再び「現金のみ」へと回帰する店舗が少しずつ増えています。
話題のワダイでは、その背景にある理由、店舗と顧客それぞれのメリット・デメリットを掘り下げ、今後の展望について考察します。
ファミマ、地場スーパーも…広がる「現金回帰」の動き

2025年3月末、仙台市のスーパー「生鮮館むらぬし」がキャッシュレス決済を全面的に終了し、現金払いに切り替えたことが話題となりました。その理由は「商品を少しでも安く提供したい」という店長の強い思いからでした。
大手コンビニチェーンのファミリーマートも、店頭でクレジットカード決済を控えるよう顧客に呼びかけ、自社の決済サービス「ファミペイ」や現金払いを推奨する動きを見せています。
これらの動きは、キャッシュレス化の大きな流れに逆行するように見えますが、その背景には店舗側が抱える深刻な問題があります。
なぜキャッシュレスをやめるのか?最大の理由は「手数料」

店舗がキャッシュレス決済をやめる最大の理由は、その手数料負担の重さにあります。
顧客がキャッシュレス決済を利用するたびに、店舗は決済事業者に対して売上の数パーセントを手数料として支払わなければなりません。
例えば、「生鮮館むらまさ」の場合、導入当初1%だったクレジットカード手数料が3%以上にまで上昇していました。PayPayのようなQRコード決済も、サービス開始当初は無料だった手数料が現在では約2%に設定されています。
特に、利益率が低いスーパーマーケットなどでは、この数パーセントの手数料が経営を大きく圧迫します。売上の3%が手数料で消えてしまうと、利益がほとんど残らないというケースも少なくありません。
決済事業者も赤字の現実

一方で、多くの決済事業者も赤字経営に苦しんでいます。これは、顧客獲得のために行われた大規模なポイント還元キャンペーンなどの費用が負担となっているためです。
政府によるキャッシュレスポイント還元事業が終了した後、事業者は自社の負担でキャンペーンを続けざるを得なくなり、赤字が膨らんでいきました。
この赤字を解消するために、今後さらに手数料が引き上げられる可能性も指摘されています。
店舗と顧客、それぞれのメリット・デメリット

キャッシュレス決済をやめ、「現金のみ」に切り替えることには、店舗側、顧客側双方にメリットとデメリットが存在します。
店舗側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
手数料負担の削減 | 機会損失(キャッシュレス決済を使いたい顧客を逃す) |
削減分を商品価格に還元できる | レジ業務の負担増(現金管理、釣り銭準備など) |
入金サイクルの速さ(現金はその場で手に入る) | 衛生面での懸念(現金の手渡し) |
通信障害や停電時でも決済可能 | インバウンド需要への対応が難しくなる |
顧客側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
店舗の手数料負担がない分、商品が安くなる可能性がある | ポイントやマイルが貯まらない |
現金の安心感(使いすぎを防ぎやすい) | 会計のスムーズさに欠ける |
– | 多額の現金を持ち歩くリスク |
なぜ中国では普及し、日本では逆行するのか?「現金の信用」という視点

世界的に見てキャッシュレス化が急速に進んでいる中国と比較すると、日本の状況は特異に見えます。その背景には「現金に対する信用度」の違いがあります。
👲中国: 偽札が多く流通しており、現金への信用が低い。また、高額紙幣が存在しないため、高額な買い物には不便という事情がありました。政府の後押しもあり、スマートフォンを使ったモバイル決済が一気に普及しました。
🎌日本: 「現金への信頼」が非常に厚い国です。偽札が極めて少なく、全国どこにでもATMがあり現金を引き出せるため、現金決済に不便を感じることが少ないのが現状です。この「現金の信用」が、キャッシュレス化の進展を緩やかにしている一因とも言えます。
「現金のみ」で成功する店舗も

キャッシュレス決済を導入しないことで、逆に成功を収めている店舗もあります。ドラッグストアの「コスモス」やスーパーの「トライアル」はその代表例です。
これらの店舗は、手数料がかからない分を商品価格の安さに反映させることで顧客の支持を集めています。また、レジ業務の簡略化や、主要な顧客層である現金払いを好む層にターゲットを絞っている点も成功の要因として挙げられます。
今後の展望
政府は2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度に引き上げる目標を掲げていますが、手数料問題など、現場が抱える課題は山積みです。

今後、決済事業者の手数料引き上げの動きがさらに進めば、キャッシュレス決済をやめる店舗はさらに増える可能性があります。一方で、手数料の引き下げ競争が起きたり、店舗の負担を軽減する新たなサービスが登場したりすることも考えられます。
私たち消費者も、キャッシュレスの利便性だけでなく、その裏にある手数料の問題や、現金決済のメリットを理解した上で、自分に合った支払い方法を選択していくことが求められるでしょう。
キャッシュレス化の大きな流れの中で起きている「現金回帰」の動きは、今後の社会のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれています。
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