2026年1月26日、世界中の天文ファン、そして科学コミュニティに動揺が走りました。
各種メディアが報じたのは、NASAの象徴であり、人類史上最も愛された科学装置「ハッブル宇宙望遠鏡」が、早ければ2029年にも地球の大気圏へ突入し、その長い生涯を終える可能性があるという予測です。
1990年の打ち上げ以来、5回のスペースシャトルによる決死の修理ミッションを経て、不死鳥のように蘇り続けてきたハッブル。しかし、ここ数年の活発な太陽活動が地球の大気を膨張させ、それが抵抗となってハッブルの軌道を予想以上の速さで低下させています。
かつて検討されていた民間による「リブースト」ミッションの実現性が不透明になる中、私たちはついに「その時」を覚悟しなければならない段階に来ているのかもしれません。
話題のワダイでは、この伝説的な望遠鏡が人類に何をもたらしたのか、その偉業を振り返ります。特別ゲストとして、銀河系外天文学の父、エドウィン・ハッブル博士(の魂)をお招きし、天文学者視点での鋭い解説をお願いしました。

ハッブル博士
やあ諸君。天国から降りてきたエドウィン・ハッブルだ。
2029年落下説か。高度600kmといえども希薄な大気はある。特に最近は太陽の活動極大期(ソーラーマックス)の影響で、上層大気が加熱されて膨張しておるからな。これを「大気抗力(Atmospheric Drag)」と言うのだが、バスほどの大きさがあり、巨大な太陽電池パドルを広げているあの望遠鏡は、言わば「帆」を張っているようなものだ。
抵抗をまともに受けて減速し、地球の重力に引かれて落ちていく。ニュートン力学の冷徹な帰結だよ。
宇宙年齢の「確定」:100年の論争に終止符を
ハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられる前、天文学者たちの間では大きな論争が続いていました。宇宙の年齢は100億年なのか、それとも200億年なのか。
その推定値には2倍もの開きがあったのです。これは「隣の家の住人が30歳か60歳かわからない」と言っているようなもので、科学としてはあまりに曖昧な状態でした。
この論争に終止符を打つことこそが、ハッブルに課された最重要ミッション「キー・プロジェクト」でした。
そしてハッブルは見事にその期待に応え、現在の標準モデルである「約138億年」という数値を導き出し、天文学の教科書を書き換えたのです。

ハッブル博士
ここが一番重要じゃ。わしが生きていた1920年代、遠くの銀河ほど速く遠ざかっているという「ハッブルの法則」を見つけたが、その膨張率(ハッブル定数)の正確な値までは特定できなかった。
この望遠鏡は、わしが愛した「セファイド変光星(ケフェイド)」を、なんと6000万光年先のおとめ座銀河団(M100)の中で見つけ出し、その変光周期から正確な距離を割り出したのだ。
地上からでは大気のゆらぎで星が団子状になってしまい、個々の星を分離することなど不可能だ。わしがやり残した宿題を、最高の精度で片付けてくれたことには感謝しているよ。

「無」から現れた数千の宇宙:ハッブル・ディープ・フィールド
1995年のクリスマス、当時の研究所所長ロバート・ウィリアムズは、とてつもない賭けに出ました。ハッブル宇宙望遠鏡の貴重な観測時間を使い、おおぐま座の「肉眼では何も見えない真っ暗な空間」を10日間にわたってひたすら撮影し続けたのです。
多くの科学者が「時間の無駄だ」と批判しました。しかし、現像された画像には、宝石を散りばめたような光景が広がっていました。
満月の一角にも満たない狭い領域に、なんと3,000個もの銀河が写っていたのです。宇宙には「何もない場所」など存在せず、どこを切り取っても無限の世界が広がっていることを、ハッブルは私たちに視覚的に突きつけました。

ハッブル博士
あの画像(ハッブル・ディープ・フィールド)は、単に綺麗なだけではないぞ。
写っている銀河の多くは、何十億年も前の姿だ。遠くを見るということは、過去を見るということだからな。画像を詳しく解析すると、遠くの銀河ほど小さく、形がいびつで不規則だということがわかる。
銀河同士が衝突や合体を繰り返し、現在のような整った渦巻銀河や楕円銀河へと成長していく…わしが作った「銀河の形態分類(ハッブル分類)」の進化の過程が、そこにははっきりと刻まれておるのじゃよ。

見えない怪物「ブラックホール」の実証
今でこそブラックホールの存在は一般常識ですが、かつては理論上の産物に過ぎませんでした。ハッブル宇宙望遠鏡は、その高い解像度を活かして銀河の中心部を観測し、「そこに超大質量の何かがなければ説明がつかない現象」を次々と捉えました。
特にM87銀河の中心から噴き出すジェットや、中心核を取り巻くガス円盤の観測は決定打となりました。目に見えない怪物が、確かにそこに潜んでいることを証明したのです。

ハッブル博士
分光器(STIS)を使ってM87の中心にあるガス円盤の回転速度を測ったのが見事だったな。秒速数百キロという猛スピードで回転しておった。
ケプラーの法則を使って中心の質量を逆算すると、太陽の約30億倍もの質量が、極めて狭い領域に詰め込まれているという計算結果が出たのだ。「ブラックホール以外にはありえない」という消去法的な証明だが、これほど美しく強力な証拠はない。アインシュタインも草葉の陰で驚いているはずじゃ。

受け継がれるバトン、そして伝説へ
現在、ハッブルの後継機として「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が稼働し、さらに将来的には「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」の打ち上げも控えています。科学の最前線は、可視光から赤外線へ、そしてより広視野の観測へとシフトしつつあります。
しかし、ハッブルが私たちに見せてくれた「可視光での鮮烈な宇宙」は、人類の視覚体験として唯一無二のものです。
2029年、もしその時が来て、ハッブルが大気圏の露と消えることになったとしても、それが終わりではありません。
彼が30年以上かけて蓄積した膨大なデータアーカイブは、未来の天文学者たちによって掘り起こされ、新たな発見を生み出し続けるでしょう。

ハッブル博士
ふん、あの金ピカの新しい望遠鏡(JWST)か。あれはあれで優秀だが、人間の目に見える「光」でこれほど情緒的な宇宙を見せてくれるのは、やはりわしの名を冠した望遠鏡だけじゃよ。
2029年に落ちるとしても、嘆くことはない。設計寿命を遥かに超えて35年以上も稼働したこと自体が、工学的奇跡だ。最後は大気圏で燃え尽きるかもしれんが、その魂(データ)は永遠に残る。
それに、わしのパイプの煙のように儚く消えていくのも、また宇宙のロマンがあるとは思わんか? さらばだ、わしの分身よ。
ありがとう、ハッブル。あなたの瞳が捉えた光は、永遠に私たちの知の道標です。



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