中国広東省深センで2024年9月に日本人の男児(当時10歳)が刺殺された事件で、故意殺人罪に問われ一審で死刑判決を言い渡された中国人の男の死刑が執行されました。
犯行から半年余りで死刑執行という日本では考えられないスピードで刑が執行されました。
そこで中国で実際に行われた死刑執行の事例を3つ取り上げて、「命をめぐる判断」について少し考えてみたいと思います。どの事件も重たく、考えさせられる内容です。ご興味のある方だけ、お読みください。
毒入りヨーグルト事件(2013年/陝西省)
~ライバル保育園への嫉妬が、子どもを巻き込む悲劇に~

事件の概要
- 発生日:2013年4月24日
- 場所:中国・陝西省榆林市定辺県(内モンゴル自治区との境に近い地域)
- 加害者:ホウ・フイラン(侯慧蘭、当時39歳)
- 動機:経営していた保育園の近隣にある別の保育園に対する「経営上のライバル意識」や「恨み」
犯行内容
ホウは、市販のヨーグルトにネズミ駆除用の殺鼠剤を混入し、そのヨーグルトをライバル園の登園ルートに置来ました。
これを見つけた2人の小学生の姉妹(5歳と8歳)が食べてしまい、2人とも中毒死したのです。
犯行から死刑執行までの流れ
- 2013年4月24日:事件発生。姉妹が死亡し、地元警察が捜査開始。
- 2013年4月27日:容疑者ホウ・フイランが逮捕される。
- 2013年10月:第一審判決。死刑判決が下る。
- 2014年2月:上訴が棄却され、死刑が確定。
- 2014年3月:死刑執行。
執行までの期間
犯行から死刑執行までの期間は約 11か月と中国国内でも非常に速いペースでの死刑執行例とされ、「見せしめ的要素」も指摘されました。
社会的反応
この事件は、子どもという社会的弱者を狙った悪質な犯行として大きな反響を呼びました。
「女性だからといって情状酌量すべきではない」
という意見も多く、死刑支持が圧倒的多数を占めました。
裁判では「計画的かつ極めて悪質な犯行」と指弾され、死刑判決が下されたのです。
中国国内でも大きな波紋を呼んだ事件であり、子どもを巻き込んだ凶悪犯罪に対する厳罰姿勢が鮮明に表れたケースです。
バス放火事件(2014年/浙江省温州市)
~社会への不満が無差別殺人へと変わった瞬間~

事件の概要
- 発生日:2014年7月5日
- 場所:浙江省温州市鹿城区の市バス車内(市街地の繁華街)
- 加害者:パン・ヨンミン(潘永民、当時45歳)
- 動機:生活苦、病気、社会に対する恨みや不満(生活保護などの社会保障制度に対する不満)
犯行内容
パンは、路線バス(23系統)の車内にガソリンを持ち込み、乗客が満員になった頃を見計らって着火。
バス車両は瞬時に炎上し、乗客の脱出が困難に。
この放火により、乗客33人が負傷(うち数名が重傷)。パン自身もやけどを負って現場で拘束されました。
犯行から死刑執行までの流れ
- 2014年7月5日:事件発生。パン・ヨンミンが現行犯で拘束される。
- 2015年5月:浙江省温州市中級人民法院で第一審判決。
- 「公共の安全を危険にさらした重大犯罪」として死刑判決が下される。
- 2015年10月:控訴審でも判決維持。死刑確定。
- 2015年12月:最高人民法院が死刑を批准。
- 2015年12月末(具体日未公表):死刑執行
犯行から死刑執行までの期間
事件発生から死刑執行までの期間は約1年5か月と中国としてはやや平均的なペースです。
「公共の安全を重大に脅かした犯罪」として迅速な司法処理が行われました。
社会的反応と制度的背景
この事件は、中国における「公共交通機関を利用した無差別殺人未遂事件」として、大きな注目を集めました。
以下のような背景や意見が話題となりました
- 犯人が社会的に孤立していた点 → 「社会福祉制度の欠陥」への批判
- 被害者の多くが一般市民だったため、非常に高い死刑支持率
- 中国の司法が「公共の安全を脅かす者には容赦しない」姿勢を示す一例となった
公共の場での無差別犯罪に対して、中国は迅速かつ強硬な司法対応を取ることが多く、この事件もその一例といえます。
麻薬王 シュー・ヨンチン事件(2019年/広東省)
~1トン超の覚醒剤を製造した“現代の麻薬帝王”~

事件の概要
- 事件発覚年:2013年
- 場所:広東省・陸豊市など
- 加害者:許英欽(シュー・ヨンチン/Xu Yingqin、男性)
- 通称:現代の「麻薬王」
- 罪状:違法薬物(メタンフェタミン=覚醒剤)製造・密売の主犯格
犯行内容:
許英欽は、中国南部の広東省に広大な地下ラボ(工場)を構え、大量の覚醒剤を製造していました。
警察が摘発した際には、製造されたメタンフェタミンの量が1トン以上にもおよび、同時に20人以上の共犯者も拘束されました。
また、覚醒剤の流通ルートは国内だけでなく海外(東南アジアなど)にも及んでいたとされ、中国当局は「大規模組織的な麻薬犯罪ネットワーク」と断定。
地元メディアや国営メディアは彼を「麻薬帝国のボス」と表現し、極めて悪質な犯罪者と位置付けました。
犯行から死刑執行までの流れ
- 2013年末〜2014年初頭:広東省警察が大規模な麻薬摘発を開始。許英欽らを逮捕。
- 2015年5月:広東省汕頭市中級人民法院にて第一審判決。
- 許英欽には死刑判決(政治権利終身剥奪、財産全没収)
- 2016年:上訴が棄却され、死刑が確定。
- 2019年6月:最高人民法院が死刑を批准し、死刑執行
犯行から死刑執行までの期間
事件摘発から死刑執行までの期間は約5年半と一般的な殺人事件に比べると長めだが、国家的な対麻薬政策の一環として処理された背景があるようです。
社会的・政治的反応
- 中国政府は当時、麻薬に対する「無慈悲な取り締まり政策」を強化しており、本件はその象徴的事件。
- 習近平国家主席が麻薬犯罪に関して「社会主義国家の敵」とまで発言するなど、体制維持と治安対策を重視する文脈で死刑が執行された。
- 「死刑は当然」「むしろ遅すぎた」といった市民の反応が多く見られた。
中国の刑法では以下の量以上で死刑を科すことが可能です
覚醒剤(メタンフェタミン) | 50グラム以上 → 死刑または無期懲役が可能 |
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中国の死刑制度の特徴とは?

上記3つの事件に共通するのは、「極めて重大な社会的影響を及ぼす犯罪」に対し、迅速かつ厳格に死刑を適用している点です。
日本では死刑判決が確定しても10年以上執行されないケースが多いのに対し、中国では1年以内に執行されることも少なくありません。
また、麻薬犯罪や無差別殺傷事件など、「体制や社会秩序を脅かす犯罪」への対応は特に厳しく、抑止力としての死刑制度が強調されています。
死刑は「正義」なのか?

死刑という制度には、常に賛否があります。
特に日本では、冤罪のリスクや人権的観点から、死刑制度の是非をめぐる議論が絶えません。
一方、中国のように「秩序を守るためには迅速な厳罰が必要」と考える国もあります。
今回の事例を通じて、読者の皆さんも改めて「命と社会の関係性」について考えてみてはいかがでしょうか?
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